大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1441号 判決 1973年11月22日

控訴人(第一審参加人、以下単に一審参加人という。)

日機工業株式会社

右代表者

東宗忠

右訴訟代理人

小松正次郎

被控訴人兼附帯被控訴人(第一審原告、以下単に一審原告という。)

株式会社和信商会

右代表者

江崎邦雄

右訴訟代理人

伏見札次郎

被控訴人兼附帯控訴人(第一審被告、以下単に一審被告という。)

椿本興業株式会社

右代表者

椿本照夫

右訴訟代理人

林藤之輔

外四名

主文

1  原判決を取消す。

2  訴外興和機械株式会社(以下単に訴外会社という)が一審被告に対して有する金七〇六万五三〇円の売掛代金債権について訴外会社が一審原告に対し昭和四〇年二月一九日なした債権譲渡行為を取消す。

3  一審被告は一審参加人に対し金七〇六万五三〇円及びこれに対する昭和四〇年四月一日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。

4  一審原告の一審被告に対する請求を棄却する。

5  一審原告は一審被告に対し金八六七万二九五円及びこれに対する昭和四四年六月二三日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用(第一、二審とも)のうち、一審参加人について生じた費用は一審原告、一審被告の負担とし、一審被告について生じた費用は二分し、その一を一審原告、その余を一審被告の負担とし、一審原告について生じた費用は一審原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める判決

一、一審参加人

1  主文1同旨

2  主文3同旨

3  (一)(訴外会社が一審原告に対し昭和四〇年二月一九日なした債権譲渡行為が不成立・無効であるとき)

一審原告は一審被告に対し金七〇六万五三〇円の債権(訴外会社が一審原告に対し昭和四〇年二月一九日なした譲渡行為による債権)を有しないことを確認する。

(二)(右債権譲渡行為が不成立・無効でないとき)

主文2同旨

4  訴訟費用は第一、二審とも一審原告、一審被告の負担とする。

5  担保を条件とする仮執行の宣言

二、一審原告

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審参加人の負担とする。

二、一審被告

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審参加人の負担とする。

3  主文5と同旨

第二  当事者の主張

当事者の事実上法律上の主張は、原判決五枚目表一二行目「売掛金請求」を「売掛金債権」と、同裏一〇行目「公正証書の正本」を、「公正証書の執行力ある正本」と各訂正し、次に付加補正するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、一審原告の主張

1  請求原因の補正

(一) 一審原告が昭和三九年八月末頃訴外会社から下請負を受けた横浜市塵芥焼却場向け電気用品の納人及び取付工事の代金の支払確保のため、その頃一審原告代表者江崎邦雄、訴外会社の業務一切につき代理権を有する常務取締役佐々木高志、一審被告担当課長大田宣夫の三者間で、一審被告が訴外会社に支払う請負代金を一審原告に直接交付する旨の特約を締結し、その後本件債権譲渡をしたが、これは右特約の履行の一形態、換言すれば弁済行為にすぎない。

(二) 右三者間の特約は、一審原告が一審被告に対し請求すれば、一審被告はその債務の範囲内の金額を一審原告に対し支払う義務を負担し、訴外会社は一審被告の右義務の履行に異議を述べられない内容を有するいわゆる代理受領であり、取立委任とは異なり、その法律的性質は債権者に極めて類似した取立権を生ずる一種の無名契約、もしくは債権質に準ずる性質を有する債確担保のためにする契約である。債権譲渡は念を入れたもので、右三者間の特約の履行すなわち弁済行為の面を無視して、債権譲渡のみを切り離して詐害行為として取消すことはできない。

(三) 仮に佐々木に右法律行為をする代理権なしとしても、訴外会社は佐々木に対する代理権の授与を表示したから、右行為の効力は訴外会社に及ぶ。

2  一審参加人の当審主張事実は争う。

3  一審被告の民訴法一九八条二項による請求原因事実は認める。

二、一審被告の民訴法一九八条二項による請求の原因

一審原告は昭和四四年六月二三日仮執行の宣言付きの本件原判決に基づき一審被告に対しその有する通貨につき差押をし、一審被告は同日一審原告に対し元本債権金七〇六万五三〇円、遅延損害金一六〇万七、四一五円、執行費用金二、三五〇円、合計金八六七万二九五円の支払をした。

よつて、当審が本案判決を変更する場合、一審被告は民訴法一九八条二項により一審原告に対し右金八六七万二九五円及びこれに対する昭和四四年六月二三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、一審参加人の主張

1  請求原因の補正

(一) 一審被告に対する請求は、転付債権の支払を求めるものである。

(二) 一審参加人と訴外会社間の大阪法務局所属公証人伏見正保作成昭和四〇年二月二四日付更第二三六二八号準消費貸借契約証書記載の準消費貸借上の債権は別紙既存債権明細書記載のとおり同三九年七月から四〇年一月までの間に発生した貸金債権及び売掛代金債権合計金八一〇万八五八〇円を消費貸借の目的としたものである。

2  一審原告の当審主張に対する認否、主張

(一) 一審参加人の主張に反する事実は争う。

(二) 訴変更不許・攻撃防禦方法却下の主張

一審原告の三者間特約の主張は、民訴二三二条一項所定の許されない訴変更又は民訴法一三九条一項所定の却下すべき攻撃防禦方法に該当するから、訴変更不許又は攻撃防禦方法却下を求める。

第三、証拠関係<略>

理由

一訴外会社が一審被告に対し昭和四〇年二月二一日現在で金七〇六万五三〇円の請負代金債権を有していたことは、全当事者間に争いがない。

二<証拠>弁論の全趣旨によれば、一審参加人は訴外会社に対し別紙既存債権明細書記載のとおり昭和三九年九月一〇日から同四〇年一月三〇日までの間に貸与した貸金債権ないし売渡した物品の売買代金債権として同年二月二二日現在で合計金八一〇万八五八〇円の債権を有していたところ、右両者間で右債権を消費貸借の目的として大阪法務局所属公証人伏見正保作成同年二月二四日付更第二三六二八号準消費貸借契約公正証書により準消費貸借契約を締結し、一審参加人は右公正証書の執行力ある正本に基づき同年三月三〇日大阪地方裁判所同年(ル)第七一三号、(ヲ)第七六五号債権差押転付命令により訴外会社の一審被告に対する本件請負代金債権金七〇六万五三〇円の差押転付を受け、右差押転付命令は同月三一日第三債務者の一審被告に送達されたことが認められる。

三<証拠>弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  訴外会社は昭和三九年八月頃一審被告から横浜市塵芥焼却場向けバッククレーン一基、天井走行バケットクレーン二基の設計製作並びに右機械に使用する電気用品の納入及び取付工事を請負つた(請負代金二、〇〇〇万円以上)。

一審参加人はその頃訴外会社から右請負のうちクレーンの納入の下請負を受け、別紙債権明細表の二の1の売掛代金四八〇万五、七四〇円(売渡日同同年一二月八日)は右クレーンの未払代金である。

一審原告も、その頃訴外会社から右請負のうち電気用品の納入及び取付工事の下請負を受け(代金一、一三〇万円)、同年一二月末頃右請負工事を完成した。

2  一審原告代表者江崎邦雄は、右下請負代金債権を担保する目的で、同年八月末頃、訴外会社の業務一切につき代理権を有していた常務取締役佐々木高志に要望して同人から、訴外会社が一審被告に対する請負代金債権金一、一三〇万円の代理受領を一審原告代表者に委任する旨の訴外会社代表者森治良吉名義の委任伏の交付を受け、一審被告の本件請負契約担当課長大田宣夫は、右担保の事実を知つたうえ、右代理受領を口頭により承認した。

一審被告は、同年一二月末頃訴外会社の担当者立会のうえ一審原告に金三〇〇万円を支払い、昭和四〇年一月末頃訴外会社に金一〇〇万円を支払い、訴外会社は、右一〇〇万円を一審原告に支払い、一審原告の残債権は七三〇万円となつた。

3  訴外会社は、右一月末頃から経営不振の状態となり、翌二月一五日その振出約束手形の不渡を出し、債務超過のため倒産した。

一審原告代表者は、一月末に残代金の支払を受ける約に反し一〇〇万円の支払を受けただけであつたので、訴外会社の経営状態に不安を感じていたところ、二月中旬頃訴外会社の手形不渡による倒産を聞知し、残債権七三〇万円を担保する目的で、訴外会社の一審被告に対する請負代金債権七三〇万円の譲渡を受けようと考え、右趣旨を記載した債権譲渡証書、債権譲渡通知書各三通を起案し、二月一九日大田宣夫を介して佐々木高志から右譲渡証書(二月一日付)、通知書に訴外会社代表者の記名押印を受け、翌二〇日右譲渡証書に公証人の確定日付を受け、同日の受付印ある内容証明郵便により右通知書を一審被告に発送し、右通知書は翌二一日一審被告に到達した。

右債権譲渡当時、債権譲渡の目的となつた一審被告に対する右請負代金債権(現実の残債権額は七〇六万五三〇円で、弁済期限は到来していた)が訴外会社の唯一の財産であつた。

4  右債権譲渡以前において、一審原告、訴外会社、一審被告の三者間に前記代理受領以上の債権担保法律関係は成立していない。

右の事実が認められ、<証拠>のうち右認定に反する部分は採用しない。

四一審原告の三者間特約の主張は、攻撃防禦方法であつて訴の変更でなく、又民訴法一三九条一項所定の却下すべき攻撃下の防禦方法の認められないから、訴変更不許・攻撃防禦方法却下の参加人の主張は採用することができない。

五上記認定によれば、債権譲渡の不成立・無効の一審参加人の主張は採用することができない。

六詐害行為の成否

1  上記認定によれば、訴外会社が倒産後に唯一の財産である本件債権を一審原告に譲渡した行為は、他の債権者の一般担保を消滅させ、他の債権者を害する行為であると認められ、訴外会社代理人佐々木は本件債権譲渡につき他の債権者を害する意思があつたものと推認され、一審原告代表者江崎も本件債権譲受により他の債権者を害することを認識していたものと推認される。

2  甲の乙に対する債権を担保する目的で、乙が丙に対する債権の代理受領を甲に委任し、丙が右担保の事実を知つたうえ、右代理受領を承認した場合(以下この場合をいわゆる代理受領という)、その後、甲の乙に対する債権を担保する目的で、乙が丙に対する右債権を甲に譲渡したとき、債権譲渡のみを切り離し詐害行為として取消すことができると解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷昭和二九年四月二日判決、民集八巻四号七四五頁参照)。けだし、右設例のいわゆる代理受領の場合、丙が右承認をしながら、乙に対し右債権の弁済をしたため、甲が乙に対する債権の満足を受けられなくなつたとき、丙は、甲に対し過失による不法行為責任を負う(最高裁判所第二小法廷昭和四四年三月四日判決、民集二三巻三号五六一頁参照)けれども、いわゆる代理受領は、第三者対抗力を備えることができない極めて弱い担保であり、担保のための債権譲渡は、いわゆる代理受領とは別個の、第三者対抗力を備えることができる強力な担保であるからである。

3  一審原告は、「右債権譲渡は、三者間の特約の履行の一形態にすぎないから、詐害行為とはならない。」と主張する。しかし、上記認定によれば、右債権譲渡の前段階において、三者間にいわゆる代理受領の法律関係の成立を認めることができるにすぎないから、一審原告の右主張は採用することができない。

七したがつて、訴外会社の右債権譲渡は詐害行為として取消すべきであり、一審被告は一審参加人に対し一審参加人の転付債権金七〇六万五三〇円及びこれに対する昭和四〇年四月一日から完済まで年六分の割合による商事遅延損害金を支払う義務があるから、一審参加人の右債権譲渡行為の取消及び右金員支払の請求はこれを認容すべく、一審原告の一審被告に対する請求はこれを棄却すべく、これと異なる原判決は取消を免れない。

八一審被告の民訴法一九八条二項による請求

一審原告の右請求原因事実は一審原告の自白するところであり、前記のとおり原判決を取消す以上、右請求は認容すべきである。

九よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九六条九二条八九条を適用し、なお一審参加人の仮執行宣言の申立は不相当としてこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(小西勝 入江教夫 大久保敏雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例